バスでおなじみのフィンガーシフト。
フィンガーシフトはかんたんに操作できるものの、コンピューター制御のため、通常のマニュアル車とは扱いが異なる点があります。フィンガーシフトの仕組み(とくに安全装置)を正しく理解しておくことが、安全にフィンガーシフト車を乗りこなすうえでは必要不可欠です。
当記事では、バスを安全に運転するために必要なフィンガーシフトの知識を厳選してお届けします。
そもそも「フィンガーシフト」とは?
フィンガーシフトとは、電子制御でギヤを変えるタイプのマニュアルトランスミッションです。
基本的な操作はマニュアル車と同じです。でも、手の力が直接ミッションに伝わっているわけではありません。
シフトレバーは単なるスイッチ。シフトレバーを動かすと、その信号がミッションに伝わって、機械の力でギアチェンジをしてくれるというものです。
▼フィンガーシフトの仕組みは次のページで解説しています▼
バスが変速するときに「ツーツー」とか「バシュ」などの音が鳴っているのを聞いたことがないでしょうか。あれはフィンガーシフトの動作音なのです。
理解しておくべき安全装置は2つ
フィンガーシフトを安全に乗りこなすには次の2つの安全装置を理解しておくことが大切です。
この2つの安全装置は諸刃の剣です。
バスの安全な運行をサポートしてくれる一方、下り坂でギアが入らなくなるなど、危険をもたらすこともあります。ちゃんと理解しておきましょう。
オーバーラン防止機能とは?
まず、オーバーラン防止機能について解説します。
「オーバーラン防止機能」とは、低すぎるギアに変速できないようにし、エンジン回転数が上がりすぎるのを防止する機能です。
例えば、100km/hで走行中に1速に入れたらどうなるでしょうか。
タコメーターが振り切り、エンジンが故障してしまいますよね。
このように、”低すぎるギア”に入れようとすると作動するのがオーバーラン防止機能です。
フィンガーシフトでは、いきなり低いギアに入れようとすると、コンピューターが危険な変速とみなし、ギアが入らなくなります。
オーバーラン防止機能を知らないとどうなるか・・・
この機能の何が怖いのでしょうか。むしろバスが壊れないからいいのでは?と思ったら大間違いです。
オーバーラン防止機能が怖いのは、ブレーキが効かなくなったときです。
例えば、長い下り坂で何らかの異常が起き、フットブレーキが効かなくなったとします。
今、あなたのバスは5速で60km/hで坂を下っています。さて、どうすればバスを止めることができるでしょうか。
多くの方がまず思いつくのがシフトダウンです。
ギアを下げれば、エンジンブレーキがかかります。フットブレーキがなくても、かなり減速することが可能です。マニュアル車の運転経験がある方なら、自然と思いつく方法ですし、教習所の学科教本にもこうした減速方法が紹介されています。
しかし、バスにおいてはこれが思わぬ落とし穴となります。
前述の通り、フィンガーシフトが搭載されているバスにはオーバーラン防止機能が搭載されているため、いきなり低いギアに入れようとすると、ギアが入らなくなります。
あなたは下り坂でブレーキが効かず、焦っています。乗用車と同じ感覚で、反射的に3速など低いギアに入れようとします。
ところが、フィンガーシフトのコンピューターはそんな状況は理解してくれません。
「このスピードで3速に入れたら、エンジンが振り切ってしまう」と判断され、シフトレバーの操作はキャンセル(つまり無視)されます。この結果、どんなに力いっぱいシフトレバーを押し込んでも、ギアは入らなくなります。
「なんでギアが入らないんだ!」と焦っているうちに、バスはさらに加速。さらに焦って、さらに低いギアに入れようとするが、再びオーバーラン防止機能が作動し入らず。
最終的に大事故に至ります。
ギアは早めに下げる。入らないときは上のギアから順序よく。
フィンガーシフトのオーバーラン防止機能を知らないと、こういう状況が現実に起こります。
フィンガーシフトのバスでギアが入らないときは、いきなり下のギアではなく、まずは1段下のギアに入れなくてはならないのです。もしギアが入らなければ、いったん1つ上のギアに入れます。
順序よくギアを下げていかないと、オーバーラン防止機能が作動してしまい、ギアが入らなくなってしまうのです。
実際のところ、軽井沢スキーバス転落事故では、(真偽は不明ですが)まさに上に挙げた例と同じ状況に陥っていたのではないかと考えている人は少なくないようです。
今や事故から年数も経過し、証明するのは難しいものと考えられますが、経験が浅いバス運転手だったため、フィンガーシフトの正しい扱い方を理解できていなかった可能性は十分にあるでしょう。
坂道に入ったら、早めにシフトダウン。これがフィンガーシフト車の鉄則です。
クラッチ浅踏み防止機能
そして、もう一つ理解しておくべきなのが「クラッチ浅踏み防止機能」
これはクラッチの踏み込みが浅い状態でギアを変えようとすると、変速がキャンセルされる機能のことです。
フィンガーシフトは機械の力で変速しているため、強い力で変速動作を行っています。クラッチの踏み込みが浅いと、ギアを痛める可能性があるため、安全装置として実装されているようです。
オーバーラン防止機能とは違い、クラッチ浅踏み防止機能が実際にトラブルを起こす可能性は低いものの、年数が経過しているバス(とくに最近ウワサの○野自動車のバス)は突然起こることがあるので、要注意。
坂道発進の直前にギアが抜ける!
こちらもオーバーラン防止機能同様、どういう状況か例をあげて説明しましょう。
クラッチ浅踏み防止機能が怖いのは、上り坂での発進時です。
プロドライバーの方々は、おおむね以下のような流れで坂道発進を行っています。
- ギアを2速(急坂なら1速)に入れる
- ブレーキを踏んだまま、半クラッチをつくる
- ブレーキを離して、アクセルON
教習所ではサイドブレーキを用いた方法を教わりますが、それでは時間がかかるため、多くの運転士の方はこのような方法を使っています。
ところが、古いバスでは、2.のタイミングで突然ギアがニュートラルに戻ってくることがあるのです。
古いバスではクラッチのセンサーが鈍っていることがあり、ちょっとした振動や衝撃で「クラッチの踏み込みが甘い!」と誤認されてしまうことがあります。
その結果(もちろん他の原因で起こることもあります)、ギア操作が突如キャンセルされ、これから発進しようとしているタイミングでギアが抜けてしまうことがあるのです。
たちが悪いのが再現性がないこと。起こるときは突然起こりますが、いつも起こるとは限りません。
このため、万が一事故に至っても、車両の故障を証明するのは難しいと思われます。
とくに大型路線バスの「ブルー○○ン」とか、”虹”みたいな名前の中型路線バスは要注意。経験上、これらのバスでは20年以上経過していると、明らかに発症確率が上昇します。
対策としては、急な坂道ではサイドブレーキで発進することです。
ギアが抜けたときに急ブレーキで回避できなさそうな急坂では、面倒くさがらずにサイドを引いておきましょう。
ちなみにESスタートでカバーできるんじゃないの?と思った方もいらっしゃるかもしれませんが、この現象に対しては無効です。
発進のタイミングでギアが抜けるので、だいたいESも解除状態になっています。やはりサイドを引いておくのが安全です。
※いすゞ製造になってからのブルー〇〇・レイン○ーは大丈夫みたいです♪
まとめ
今回はフィンガーシフトの落とし穴についてまとめてみました。
日々のバスの安全運行にお役立ていただければ幸いです!
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